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事業承継のあり方

事業承継のあり方

―経営改善と一体で考える、中小企業の事業承継―

事業承継とは「社長がいなくても回る会社」をつくること

日本では経営者の高齢化が進み、後継者不足は多くの中小企業にとって大きな経営課題となっています。
親族の中に後継者がいない。従業員への承継を考えているものの、本当に経営を任せられるのか不安がある。第三者への承継やM&Aも選択肢にはなるが、何から始めればよいのか分からない。
こうした悩みを抱えている中小企業経営者は、決して少なくありません。

事業承継というと、多くの場合「誰に会社を継がせるか」という後継者探しの問題として捉えられがちです。
しかし、私たちは事業承継をそれだけの問題だとは考えていません。

事業承継と経営改善は、本来一体のものです。
会社を次の世代へ引き継ぐためには、まずその会社自体が、次の経営者が経営できる状態になっていなければならないからです。
例えば、100年以上経営が続いている企業においては、事業承継は経営改善の一つのイベントと言っても過言ではありません。

中小企業では、社長自身が営業の中心となり、主要な取引先との関係を築き、資金繰りを把握し、採用を行い、現場の判断まで行っているケースが珍しくありません。
「あの取引先は社長しか分からない」
「価格は社長が決めている」
「銀行との交渉は社長しかできない」
「重要な判断はすべて社長に確認しなければならない」

こうした会社は、一見すると社長のリーダーシップによって強く経営されているように見えます。しかし、事業承継という視点から見れば、大きなリスクを抱えているとも言えます。
なぜなら、その会社の価値が「会社そのもの」ではなく、社長個人に帰属しているからです。
どれほど売上があり、利益を出している会社であっても、社長がいなくなった瞬間に取引先との関係が途切れたり、意思決定ができなくなったりするようでは、円滑な事業承継は難しくなります。

そこで私たちは、事業承継を一言で表現するなら、

「社長を会社から引きはがすこと」

だと考えています。

もちろん、これは社長を不要にするという意味ではありません。
社長にしかできない仕事、社長しか知らない情報、社長だけが持っている取引先との関係やノウハウを、一つひとつ会社の中へ移していくという意味です。
人に仕事を任せ、仕組みに落とし込み、情報を共有し、組織として意思決定できる体制をつくっていく。
つまり、「社長がいなくても会社が回る状態」をつくることこそ、事業承継の本質なのです。

そのためには、事業承継の準備と同時に経営改善を進めなければなりません。
利益を生んでいる事業は何なのか。不採算となっている事業はないか。特定の取引先への依存度が高くなっていないか。業務が特定の人に集中していないか。資金繰りに問題はないか。将来を担う人材は育っているか。

こうした経営上の課題を一つひとつ整理し、改善していくことが、そのまま事業承継の準備につながります。
特に重要なのが、属人化を取り除くことです。

中小企業では、社長だけでなく、ベテラン社員や特定の担当者の経験や勘に頼っている仕事も多くあります。
その人が休めば仕事が止まる。その人が退職すればノウハウまで失われる。
こうした状態を放置したまま経営者だけを交代しても、本当の意味で事業を次の世代へ引き継いだとは言えません。
業務を見える化し、役割を明確にし、情報やノウハウを会社の財産として蓄積していく。その積み重ねによって、会社は「個人に依存する組織」から「組織として動く会社」へと変わっていきます。

そして、この取り組みは事業承継だけに役立つものではありません。
社長がいなくても経営できる会社は、経営の安定性が高まります。社員が自ら考え、判断できるようになれば、組織の生産性も高まります。新しい人材を受け入れ、育成する余力も生まれてきます。
結果として、会社そのものの価値、つまり企業価値の向上につながっていきます。

これは親族内承継であっても、従業員承継であっても、第三者へのM&Aであっても同じです。
特定の経営者に依存している会社よりも、組織として安定的に利益を生み出せる会社の方が、当然ながら次の経営者にとっても引き継ぎやすく、第三者から見ても魅力のある会社になります。

事業承継とは、単に会社の株式や代表者の地位を次の人へ渡すことではありません。
これまで経営者が築き上げてきた技術、信用、顧客、従業員、ノウハウといった会社の財産を整理し、それらが次の世代でも生き続ける仕組みをつくることです。
そして、強い会社が地域に残ることによって、従業員の雇用が守られ、新しい雇用が生まれ、取引先との関係も続いていきます。

一つの会社の事業承継は、その会社だけの問題ではありません。
従業員やその家族、取引先、地域経済にもつながっています。
だからこそ私たちは、単に「後継者を探す」「会社を売る」というところから事業承継を考えるのではなく、まず会社そのものを強くすることから始める必要があると考えています。

事業承継と経営改善を同時に進め、社長がいなくても回る強い組織をつくる。
その結果として企業価値が高まり、雇用が守られ、企業が次の世代へと引き継がれていく。
それこそが、中小企業に求められる事業承継のあり方ではないでしょうか。 (田﨑)

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